2013年3月25日月曜日

第28回日本環境感染学会 インフルエンザ発症確認前の咳に注意 すでにウイルス排出中の児童が学級内感染の感染源に

 インフルエンザの流行制御においては、感染が広がるきっかけを明確にし、それに対して重点的な対策を講じることができれば効果的だ。群馬大学大学院生体防御機構学の清水宣明氏らは、地域のインフルエンザ流行を制御する鍵の1つを握るのは小学校と考え、三重県の小学校で疫学研究を精力的に続けている。2011年シーズンに2つの小学校で行った研究からは、インフルエンザ発症とまだ認識されていないが、すでにウイルス排出量が増えている時期の児童が登校し、教室内感染の感染源となるケースが少なくないことが分かり、第28回日本環境感染学会総会(3月1~2日、開催地:横浜市)で報告した。

 「感染歴の少ない年少者が密集して長時間生活する小学校は、インフルエンザの地域流行を拡大させる場となる懸念があるが、一方で、小学校における感染制御がうまくいけば、地域流行の軽減につながる可能性が期待できる」と清水氏。小学校における感染の広がり方を把握して「どこを攻めれば、小学校を含めた地域の感染拡大を抑制できるかを明らかにしたいと考えている」。

 清水氏らがインフルエンザの疫学研究を続けているのは、三重県中部沿岸地区の小学校。児童の保護者に記録してもらった、シーズン中(12月~3月)の欠席や症状の記録などをもとに、流行動態を検討している。

 A(H1N1)pdm09のパンデミックが見られた2009年シーズンは、児童数約150人のA小学校で解析した。発症者は10月から、5年生を中心にゆっくり増えた。11月に入ってすぐ、2年生、3年生で発症者が数十人レベルまで増加した。そこで各学年で学級閉鎖が行われた。しかし、流行が収まることはなく、その後もずるずると続いた。12月に入ると、5年生、6年生で再び発症者が増加したが、その後は減少し、12月末にはほぼ収束した。ウイルス亜型はすべてA型だった。このように「学校の流行は爆発的ではなく、だらだら進む」。学校内で広がっていくというより「児童が家庭など、学校以外の場所で感染して、学校に持ち込み、少人数に感染させるが、その後一気に広がるのではなく、そこで感染の糸は一旦切れる。そして、また別の児童が学校以外の場所で感染して学校に持ち込み、少人数に感染させる。この繰り返しで、だらだらと続いていくことが推測された」という。

 今回は、新たに研究に参加した児童数約300人のB小学校を加えた2校で、それぞれ2011年シーズンにおける流行動態を解析した。まず、A小学校では、全学年で約51%が罹患した。低学年で60%とやや高い傾向が見られた。ウイルス亜型はA型、B型がほぼ半々。12月初めから、2年生、5年生などでA型発症者が徐々に増えた。しかし、約20人に達した同月半ば、突如流行が止まった。1月半ばから再び発症者が見られるようになり、その後、屋内で行われた学校行事を契機に、5年生、1年生などでアウトブレーク様の増加が認められた。1年生は学級閉鎖を行った。2月に入ると発症者は急速に減って収束した。2月末からはB型の発症者が見られ、3月に入って3年生、4年生を中心に増加し、4年生で学級閉鎖を行った。3月末までには収束した。

 B小学校では、主にA型が流行した。罹患率はB型と合わせて22%と低かった。発症者数の変動パターンはA小学校と同様、シグモイド曲線(S字)様を示した。1月初旬からA型発症者が徐々に見られるようになり、月末から2月初めにかけて、50人程度まで増加したが、2月半ばには収束した。3月に入ると、10人程度がB型を発症者したが、半ばまでにはほぼ収束した。

 欠席日数は、A小学校では5日がピークで平均5.35日。B小学校では4日が最多だったが、それより短期間で登校する児童も比較的多く、平均3.86日だった。A小学校で、欠席4日以下で登校した児童から二次感染したと考えられる罹患者はごく少数に留まった。この結果から、欠席日数が長ければそれだけ二次感染の抑制に有効というわけではないことが示唆されたという。

 発症を認識したときの症状は、2校とも、発熱以外では、「咳または喉の痛み」が8割前後、さらに「咳のみ」という児童も3~6割認められた。さらに、発症を認識した日時と症状の関係を調べると、登校した罹患児童の約4割で、学校にいる時間帯とウイルス排出時間帯が重なっており、うち約7割で咳が認められた。罹患児童の約3割に当たるこれらの児童が、教室内感染の感染源になった可能性が考えられたという。

 すなわち、高熱がないなど、発症が明らかでなかったために登校したものの、その時点ですでにウイルス排出量が増えており、咳などにより教室内の他の児童に感染させるというパターンが少なくないことが示された。発症認識前に咳があったかどうかが重要なため、清水氏は「保護者から学校に『今日は子どもを欠席させます』という電話があった際には、どんな症状がいつから見られたかを保護者に聞くようにお願いしている」と述べた。