2013年3月24日日曜日

復興予算の光と影 地域医療再生 厳しい道のり


3月24日(日)7時55分配信
復興予算の光と影 地域医療再生 厳しい道のり
宮城県南三陸町(写真:産経新聞)
 ■民間診療所 奮闘も限界

 雪が残る宮城県気仙沼市の山間部。「村岡外科クリニック」の院長、村岡正朗さん(52)は、この日も日課の往診に軽乗用車で向かっていた。

 末期の食道がん患者の女性(83)宅。「痛みが出たら言ってください。できるだけとっていきましょう」と優しく声をかける。丁寧な対応に、「わざわざ、申し訳ねえ」と、女性は深く頭を下げた。

 午前の診察が終わると、急いで昼食を済ませ、往診に出る。東日本大震災の前、1カ月に約20人だった往診患者は、震災後、70人に増えた。外来患者も多い日には100人を超える。

 「将来想定されていた問題が、震災で押し寄せた感じだね」(村岡さん)。気仙沼市と隣接の南三陸町を合わせた医師の数は、震災前(平成22年)で、人口10万人あたり121・0人と全国平均230・4人の約半数。もともと医療過疎に悩む地域を震災が襲った。

 震災で気仙沼市中心部にあった自宅兼診療所は全壊、地盤沈下で満潮には浸水するようになっていた。

 父の跡を継いだ町の「先生」は、被災者の希望の光だった。ある日、避難所で「先生、よかった、残ってくれて」と喜ばれた。

 「何とか残らなければ…」。村岡さんは元の診療所のローンを抱えたまま新しい建物に約9千万円、医療機器に約1億円をかけ、昨年5月、診療所を再建した。ローンは約2億円に膨らんだ。「70歳を超えても仕事する覚悟ですよ」

 国は「医療施設等災害復旧費補助金」や「地域医療再生臨時特例交付金」などを復興に充て、かなりの補助を行っている。しかし、例えば災害復旧費補助金が支給されるのは公立が中心で、一部を除き、民間診療所などは対象外だ。
村岡さんも市の休日診療を請け負っていたため補助対象となり、災害復旧費補助金から1470万円を支給された。県の補助を合わせると支給額は2千万円。少ない額ではないが、病院や診療所を維持しようとする医師から「少ないという声が上がっている」(宮城県の担当者)のが現状だ。

 宮城県によると、今月1日現在、気仙沼市と南三陸町の医療機関の再開率は73・2%。再開を断念した医師も多いという。 

 そんな中で、浮かんだ復興予算の“目的外”使用問題。宮城県保険医協会は昨年12月、「復興と無縁な目的に使われていることに深い憤りを覚える」との共同アピールを出した。保険医協会の担当者は「医師個人の頑張りが地域医療を支えているが、頼りすぎてはいけない」ともらす。

 復興予算は多くの被災者を助けているが、同時に多くの“ミスマッチ”も存在する。被災者の思いをくんだ支援こそが、真の「復興」を進める。

【用語解説】医療施設等災害復旧費補助金

 自治体や日赤などの公的医療機関や救急、休日・夜間当番医など政策医療を行う民間医療機関や医療関係者養成機関に対し、復旧費用の3分の2から2分の1を補助する。施設にのみ適用され、医療設備は適用外。

 地域医療再生臨時特例交付金 医師確保など地域の医療課題解決のために、都道府県が策定する「地域医療再生計画」に基づき、国が交付金を拠出。都道府県はそれを基金化し、病院を補助する。