2013年4月15日月曜日

TPPで変わる社会 医療分野 混合診療 分かれる評価



TPPで変わる社会 医療分野 混合診療 分かれる評価
医療分野で予想される影響(写真:産経新聞)
 「国民皆保険は医療制度の根幹だ。揺るがすことは絶対にないよう取り組む」。衆院予算委員会のTPPに関する集中審議。甘利明TPP担当相は制度堅持を強調した。

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 国民皆保険とは、全ての国民が公的医療保険に加入し、保険料を支払う代わりに1~3割の負担で診療を受けられる制度で、金持ちでも貧しくても平等に治療が受けられるメリットがある。開業医らでつくる日本医師会(日医)は、世界でも類を見ないこの制度が、TPPに参加すれば崩壊してしまうと強く訴える。

 日医の主張はこうだ。現在、保険で使える薬の値段や診療費は国が決め、安価に抑えている。これに対し、医療分野でも輸出拡大を目指す米国は、自由診療を広げるため、TPP交渉で混合診療の全面解禁を求めてくると想定。米国には、自国企業の高い薬を売り、高額治療に備える民間医療保険の加入を増やす狙いがあるほか、株式会社の病院参入を求めてくる可能性もあるとみている。

 日医は、それによって保険適用範囲の診療が縮小し、貧しい人が十分な医療を受けられなくなったり、薬が高くなったりすると主張。医療機関の競争が激しくなるという危惧もある。だが、混合診療は、同じ病気でも患者によって治療法や薬を自由に選べるという利点もある。国が保険診療を一定レベルで保てば、高い金を支払わなくても必要な診療は受けられる。

 「競争力ゼロの自分たちの社会をつぶされたらたまらんという意識なのでしょう。既得権益を守るために国民皆保険堅持を主張している」。高度医療を行うある医院の院長は冷ややかに語る。がん治療に定評のあるこの医院には、国内各地のほか台湾、韓国など海外からも患者が訪れる。「いくらかかっても構わない。最もいい治療をしてほしい」。患者の願いは共通だが、外国人が自由診療なのに対し、混合診療ができない国内患者はこの医院では保険診療の範囲での治療にとどめている。

 「誰でも平等に医療を受けられる制度は最低限保証されるべきだが、制度自体がほころんでいる」。院長は痛切に感じている。財政難で制度維持が危ぶまれる一方、保険適用で処方された3カ月で約210万円もする抗がん剤を「飲むと気持ち悪くなるからほとんど飲んでいない」と告白する患者もいた。院長は「制度見直しはもはや避けられない」と考えている。

 患者側にも、変革には複雑な思いがある。「海外で流通する抗がん剤があるのに、国内未承認というだけで使えないケースもある。切迫した命が、混合診療であれば救われる可能性もある」。8年前に乳がんの手術を受けた兵庫県西宮市の橋本真由美さん(46)は、混合診療を前向きにとらえる半面、「国民皆保険制度が崩れて患者負担が増えたり、格差が出たりするのであれば反対せざるを得ない」とも語る。

 「公的医療保険制度の在り方そのものは(TPP交渉の)議論の対象にはなっていない」。甘利担当相は衆院予算委で説明したが、参加各国の思惑がどのように動くのかがはっきりしない中で、懸念は消えない。一方、日医がTPPに反対するのは、開業医の市場が荒らされ、競争に敗れることへの恐れからだという見方もある。それでも政府は、日医への配慮を欠かさない。日医が自民党の有力な支持団体であることが背後に透けて見える。

 夏の参院選をにらみ、自民と支援団体との関係を重視するあまり、政府が国益を害するような結果を招くようなことは、無論あってはならない。
産経