2013年4月3日水曜日

学生、進む「原子力」離れ 関連学部の出願 福島事故後2割減


学生、進む「原子力」離れ 関連学部の出願 福島事故後2割減
原子力関係学科への志願者数(写真:産経新聞)
 ■「安全管理に人材必要」懸念も

 東日本大震災の津波による東京電力福島第1原発事故以降、全国の大学の原子力関連学部への志願者数が、最も少なくなったことが文部科学省などへの取材で わかった。平成25年度入試の出願者数の合計は440人と事故前から約2割減少。さらに、原子力関係企業への就職説明会に参加した学生も事故前の20%に 減り、学生の“原子力離れ”に歯止めがかからない状態になっている。関係者からは「このまま減少傾向が続くと、学部を廃止する大学も出てくるのでは」と懸 念の声が上がる。

 ◆全国で440人のみ

 文科省が「原子力関連学部」としている福井工大など3大学3学科の25年度入試には計440人が出願。昨年度より28人少なく、22年度(541人)からは20%近く減少した。志願者の減少に伴い、定員も3学部合わせて昨年度から20人以上減らされている。

 昭和59年に21あった原子力関連学科、専攻は、同省によると平成16年には計5学科、専攻(大学院を含む)にまで減少。その後、政府が原子力に携わる 人材確保、育成を重視する方針を示したことから、22年度には学部の志願者数は541人にまで増加したが、原発事故後大幅に減少した。

 大学で専門に研究している学生が進む大学院でも、原子核工学など9専攻のうち一部の専攻で定員割れが続いており、将来的な学生確保を不安視する関係者もいる。

 原子力離れの傾向は進路選択だけにとどまらない。今年2月、東京と大阪で行われた原子力関係企業の合同説明会。参加した学生は計388人で、22年度(計1903人)の20%にとどまり、こちらも原発事故後最少となったほか、参加企業も事故前の約半数の34社だった。

 ◆もっと魅力示せ

 こうした事態に現場の研究者らからは「大学や産業界が学生に魅力を示すべきだ」「今は安全管理、危機管理の人材育成がより求められている」との声があが る。全国15の大学が人材育成で連携する「国際原子力人材育成大学連合ネット」が発足し、24年度には長岡技術科学大(新潟県長岡市)が原子力システム安 全工学専攻を設置するなど、大学側も独自に人材育成に乗り出している。

 東京工業大学原子炉工学研究所の斉藤正樹教授は、志願者の減少傾向に懸念を示し、「原子力はグローバル産業。海外にもマーケットがあると産業界は学生にメッセージを送るべきだ」と強調する。

 文科省の担当者は「政府がしっかりとしたエネルギー戦略を打ち立てるまでは、この(原子力離れの)傾向は続くのではないか」と懸念を示し、「大学が学科 や専攻をどう維持していくかが大切。原子力関連の学科はコストもかかり、学生が減ってしまうと、学科や専攻を守れない」と話している。

 ■規制庁採用 わずか1人

 昨年9月に発足した原子力規制庁も、平成25年度の大学新卒採用の職員は1人だけと“人材難”に悩む。同庁の人事担当者は「発足したころには今年度の募 集が終わっていた」ことを理由にあげるが、一方で「認知度が低かったり、原発に対する不安を口にしたりする学生もいる」としている。

 同庁は環境省と合同で学生向けの説明会を実施しており、学生の反応は悪くないという。ただ「環境省志望の学生がほとんどで、本当に原子力規制庁を希望する学生はとても少ないのが現状」という。

 一方、「原発が止まれば将来的に仕事がなくなるのでは」との不安を口にする学生は多いといい、原発を止めるにも数十年単位の時間がかかることなどをてい ねいに説明しているという。人材確保は同庁にとって緊急の課題なだけに、同庁の担当者は「認知度を高め仕事内容について理解を深めていかなければならな い」としている。

産経新聞 4月3日