2013年4月10日水曜日

健康被害防止へ安全指針 カイロ療法団体が作成 法制化が今後の課題

整体、カイロプラクティック、指圧、マッサージ...。町中にはこれら「医業類似行為」と呼ばれる療法の看板があふれている。健康の回復や維持を目的に、利用した経験がある人も多いだろう。一方で医業類似行為の実態には不透明な部分もあり、健康被害や効果をめぐるトラブルが後を絶たない。特に法的資格制度のない整体やカイロプラクティックなどは、施術者の技術レベルや施術方法がまちまちで問題視されている。施術の適正化を図ろうと、カイロプラクティックの業界団体が安全指針をまとめた。
20130409honki.jpg▽骨折や捻挫
 「接骨院でカイロプラクティックを受けて肋軟骨を負傷、頸椎も捻挫した」「整体サービスで逆に腰が痛くなった」―。
 昨年8月、国民生活センター は施術者が手を使って行う医業類似行為について、2007年度以降の約5年間に健康被害の相談が825件寄せられ、件数は増加傾向にあると発表した。
 被害の内容は「神経・脊髄の損傷」が最多で21・6%を占め、骨折(9・6%)、擦り傷・打撲(9・5%)、筋・腱の損傷(5・5%)と続いた。相談者の申告に基づいて施術内容を分類すると、「マッサージ」と称したものが最も多く34・1%。整体は29・1%、カイロプラクティックは13・3%だった。
 同センターは関係する業界団体に、安全性確保のための施術者への指導や、施術の指針(ガイドライン)作成を要請。その一つ、日本カイロプラクターズ協会 がまとめたのが今回の指針だ。
20130409kao1.jpg▽WHO基準
協会によると、カイロプラクティックは骨格のゆがみ、特に背骨のゆがみを手で調整し、神経系の働きを高めて健康を増進する療法で、1895年に米国で始まった。ギリシャ語でカイロは「手」、プラクティックは「技」を意味している。
 海外に目を向けると、カイロプラクティックは2012年現在、米国、英国など44の国と地域で資格などが法制化されている。世界保健機関(WHO)は補完代替医療と位置づけ、05年には「基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン」を定めた。
 しかし日本はどうか。「法に基づく資格制度がない。未経験者が、きょうからカイロプラクティックの看板を掲げて開業することも事実上可能なのです」と協会の竹谷内啓介理事長は話す。
 国内のカイロプラクティック施術者数は推定2万人前後に上るが、WHO基準を満たす教育の修了者は同協会員を含めた約800人にすぎず、数日~数週間の講習会や、1~2年の短期養成校などに通って開業するケースが大多数だという。
20130409navi.jpg▽適応と禁忌
 「短期の教育では実技に偏重する。しかし最も重要なのは問診で症状や健康状態を確認し、施術の適応か禁忌かを見極めること。そのためには時間をかけて基礎医学や臨床医学の知識を身につける必要があります。現状では被害が発生するのも当然です」と竹谷内さんは危機感を募らせる。
 指針は、カイロプラクティックの適応症として腰痛や頸部痛、むち打ち症、肩こり、背部痛、疲労感などを挙げる一方、施術によって患者に直接的な害が及ぶ可能性がある禁忌症としてリウマチ性関節炎やがん、感染症などの疾患名を具体的に示した。また、WHO基準の教育こそが安全性の向上につながるとし、これを満たしていない多くの施術者には再教育が必要だと指摘した。
 「施術者の認定試験制度や、利用者が安全な施術者を選別できる仕組みを作りたい。こうした業界の努力が、将来の法制化や資格の制度化につながるはずです」と竹谷内さんは期待している。(共同通信 赤坂達也)