2013年4月4日木曜日

がんの悩み、向き合う 順天堂大・樋野教授 患者と語り合う「哲学外来」

2013年4月4日 東京新聞
 
がん哲学外来の理念を語る樋野教授=横浜市緑区で
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 がん患者とともに悩みを語り合う無料相談「がん哲学外来」が、横浜市緑区の中山駅(JR横浜線、市営地下鉄グリーンライン)前の一角で、毎月1回 開かれている。担当する順天堂大学医学部の樋野興夫教授(59)=病理・腫瘍学=が、外来を始めて今年で5年。樋野さんは「大学以外で最初に開催した場所 が横浜だった。横浜はがん哲学外来の発祥地の一つ」と、開設当時を振り返る。(新開浩)
 樋野さんが、がん哲学外来を順天堂大学病院(東京都文京区)に開いたのは、二〇〇八年一月。「がんの解決はできないが、悩みは解消できる」と考え、余命少ない末期がん患者の悩みを聞き、語り合う場を設けた。
 開設後は相談希望者が相次ぎ、キャンセル待ちが続出。間に合わずに末期患者が亡くなるケースもあり、この年の秋、横浜でも月一回の外来を始めた。開催地は今、全国二十三カ所に広がった。
 樋野さんは「明日死ぬかもしれない末期がん患者も、対話を求めている。人は対話によって傷つき、癒やされる。冷たい医学用語ではダメ。医者が温かい言葉で話せば、患者の意識も変わる。『たとえ明日死んでも、きょうは花に水をやる』と思うようになる」と、意義を説明する。
 本来の専門は発がん病理学。正常細胞が、がん化するメカニズムの研究だ。アスベスト(石綿)による中皮腫問題では、血液による診断キットの開発や、順天堂大学病院の「アスベスト・中皮腫外来」開設に努めた。
 化学物質や遺伝による発がん研究を通じ、樋野さんは「がん細胞で起こることは、人間社会でも起こる」と痛感。がんを通じて人間を考える「がん哲学」の提唱を始めた。
 樋野さんの活動は世界も視野に入れる。一月には「国際環境発がん制御研究会」を設立。アスベストによる中皮腫がアジア各国でも問題になっているため「予防、診断、治療の総合戦略を日本からアジアに発信し、国際貢献すべきだ」と呼び掛けている。
 がん哲学外来の問い合わせ先は、メールアドレス=gantetsugaku@gmail.com=へ。