2013年4月4日木曜日

鳥インフル変異で「パンデミック」の恐れ、感染源なお不明

[ロンドン 3日 ロイター] 中国で初めてヒトへの感染が確認されたH7N9型の鳥インフルエンザは、科学者らが遺伝子配列のデータ分析を行った結果、ヒトへのパンデミック(世界的大流行)を引き起こしやすいタイプに変異していることが分かった。

しかし、中国で死者3人を出した同ウイルスがヒトからヒトへ感染している証拠は今のところ見つかっていない。

中国の保健当局がH7N9型の感染確認を発表してからまだ数日しかたっていないが、世界各地の研究者は感染者から検出されたウイルスの遺伝子情報の提供を受けて、大流行の可能性について研究を進めている。

オランダのエラスムス大医学センター教授で、インフルエンザ研究の世界的権威であるアブ・オステルハウス氏は、遺伝子の配列から変異していることが分かり、当局による警戒と動物やヒトへの監視を強化すべきだと指摘する。

オステルハウス氏はロイターの電話取材に、「ウイルスは既にある程度までは哺乳類やヒトに適応しており、そうした観点から憂慮すべきだ」とし、「注意深く監視する必要がある」と述べた。

中国の国家衛生計画生育委員会は1日、H7N9型鳥インフルエンザに3人が感染し、このうち上海の87歳と27歳の男性が3月初めに死亡したと発表。3日までに死者は3人、感染者は9人に増加した。

世界保健機関(WHO)も同日、ヒト感染が初めて確認されたことから、同ウイルスの問題を「深刻に捉えている」との見解を示した。

鳥インフルエンザをめぐっては、ここ数年でH5N1型などの流行が起きているが、これまでヒトからヒトへの感染は確認されていない。一方、H7N9型もこれまでのところ、ヒト同士の感染はないとみられている。

研究はまだ初期段階だが、これまでの分析でH7N9型は、鳥が感染しても病気になりにくい低病原性(LPAI)だとされる。ただ、インペリアル・カレッジ・ロンドンのウェンディ・バークレー教授は、ヒトに対しても同様だとは必ずしも言えないと警鐘を鳴らす。

<感染源は依然分からず>

バークレー教授は、H5やH7の亜型が特に鳥の間で感染を繰り返すうちに、低病原性からより危険な高病原性に変異していると説明、「われわれは無関心ではいられず、注意が必要だ」と語る。

鳥にとって危険性が低いということは、H7N9型が静かに拡散する可能性も意味する。そうなると、野生の鳥や家禽(かきん)が大量死し、目に見えて影響が分かるH5N1型のような高病原性に比べて発見が難しくなる。

バークレー教授は、「両刃の剣のようなものだ。高病原性なら全てのニワトリが死亡し、養鶏業者にとっては非常にまずい事態だが、ウイルスがどこにあるかは 分かりやすくなる」と指摘。ただ、「今のところ、このウイルスの感染源は分かっていない。どの動物が感染源かも分からない」として、事態を憂慮した。

現在、中国や世界の研究者にとって最優先の課題は、感染源を突き止め、ウイルスがヒトの間で大流行を引き起こすタイプに変異するかどうかを監視することだと、オステルハウス氏とバークレー氏は口をそろえる。

WHOは、中国政府が監視体制の強化のほか、感染者と接触した人の追跡調査や医療関係者の訓練など、重要な各種対策を取ることで事態に対処していると評価する。

専門家は、H7N9型が確認後、速やかに報告されたという事実や世界中の研究者が分析できるように遺伝子情報が既に提供されているということが、状況が変わってきた兆しだと指摘する。

2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際、中国政府は当初、その事実を隠ぺいしようとした。猛威を振るったSARSは世界中で約8000人が感染し、その10%が死亡した。

英レディング大学のウイルス学教授イアン・ジョーンズ氏は、インフルエンザ自体への意識や、通常とは異なる呼吸器系疾患が新たなインフルエンザかもしれないとの懸念が高まることで、医療機関にはさらなる事例が集まるようになると期待する。

同氏は「インフルエンザはどこかに存在するため、こうしたケースを検知できる可能性はかなり高い」との見方を示した。

(ロイター日本語サービス 原文:Ben Hirschler、Will Waterman、翻訳:橋本俊樹、編集:宮井伸明)