Christine Dell'Amore
for National Geographic News
for National Geographic News
September 8, 2011
薬指が人差し指より長いか短いかは、ホルモンの違いによって決まることが、マウスを用いた研究で初めて明らかになった。
胎児期に、性ホルモンのエストロゲンとテストステロンが遺伝子に影響を及ぼすことで、指の長さが決定するのだという。その結果、男性は薬指が人差し指よりも長い人が多く、女性はその逆の人が多くなる。
指の長さの違いは、これまでにも攻撃性や音楽的能力、性的指向など、人間のさまざまな特性としばしば関連付けられてきた。自閉症、うつ、心臓発作、癌といった障害や健康問題との関連性も指摘されている。
「成人であれ新生児であれ、その人の胎児期に何が起こったかを確かめることは困難だ。しかし、指の長さの比率(指比)が胎児期のホルモン環境を反映してい るとわかったことで、あらゆる相関研究に説明がつく」と、今回の研究を率いたチェングイ・チェン(Zhengui Zheng)氏は話す。チェン氏は、フロリダ州にあるハワード・ヒューズ医学研究所の発達生物学者で、研究の共著者であるマーティン・コーン (Martin Cohn)氏の研究室に所属している。
◆指の長さにホルモンが影響することを示した初の研究
性ホルモンが指の長さに影響を及ぼすことは以前から推測されていたが、「因果関係が証明されたことはなかった。男性と女性で指の長さに違いが出る直接の原因はホルモンだとする説を検証した例は過去にない」とコーン氏は言う。
チェン氏とコーン氏は、ヒトと同じく体内にエストロゲンとテストステロンを持つマウスを対象に、2つの一般的方法を用いて実験を行った。
1つは遺伝子を用いて、細胞の受容体(他の細胞とシグナルの伝達を行う分子)を不活性化する方法だ。マウス胎児の発達中の肢芽におけるテストステロンと エストロゲンの受容体に対してこの方法がとられた。そしてもう1つは、妊娠中のメスのマウスのホルモン濃度を高める方法だ。
実験結果は一貫していた。胎内でテストステロンの受容体が不活性化だったオスのマウスは、人差し指が薬指より長い“女性的”な指比を持って生まれ、エストロゲンの受容体が不活性化だったオスのマウスは、薬指のほうが長かった。
一方、エストロゲンの受容体が不活性化だったメスのマウスは、長い薬指を持って生まれ、テストステロンの影響を受けなかったメスのマウスは、非常に“女性的”な短い薬指を持って生まれた。
さらには、マウスの発達中の指における細胞分裂速度にホルモンが影響することも明らかになった。
テストステロンは薬指の細胞分裂を刺激し、軟骨と骨を成長させて指を長くする。これに対し、エストロゲンは細胞分裂を遅くして指を短くする。
しかし、研究チームを本当に驚かせたのは、指の長さに影響を及ぼすのがホルモンの絶対値(エストロゲンの総量など)ではなく、マウスの肢芽におけるホルモン作用のバランスだったことだとコーン氏は述べている。
◆指の長さから胎児期の影響を読み取れる?
コーン氏によると、今回の研究結果は、われわれの指の長さが、胎内でのごく短い発達期間におけるホルモンバランスを知るための“目安”になる可能性を示唆しているという。
例えば、人差し指が薬指より長い男性の場合、胎児期に多量のエストロゲンを浴びた可能性が考えられる。それ自体は、必ずしも悪いことではない。
しかし、そのようなイレギュラーなことが起きると、大人になってから健康問題を生じる場合もある。例えば、ホルモンと似た働きをする、またはホルモンを阻害する合成化学物質の影響を胎内で受けると、幼年期または成年期に健康問題を引き起こす可能性が指摘されている。
これまでは、母体が妊娠中に化学物質にさらされ、それによって胎児のホルモン作用が乱れたとしても、それを確かめることは困難だった。
しかしコーン氏によると、今回の研究によって、そのような出来事は痕跡を残す可能性が示唆されたことになり、このことは疾患や先天異常の原因を特定したり、さらには人の行動特性を説明したりすることにも役立つ可能性があるという。
研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に9月6日付で公開された。
Photograph by Nick Veasey, Getty Images
指の長さの違いは、これまでにも攻撃性や音楽的能力、性的指向など、人間のさまざまな特性としばしば関連付けられてきた。自閉症、うつ、心臓発作、癌といった障害や健康問題との関連性も指摘されている。
「成人であれ新生児であれ、その人の胎児期に何が起こったかを確かめることは困難だ。しかし、指の長さの比率(指比)が胎児期のホルモン環境を反映してい るとわかったことで、あらゆる相関研究に説明がつく」と、今回の研究を率いたチェングイ・チェン(Zhengui Zheng)氏は話す。チェン氏は、フロリダ州にあるハワード・ヒューズ医学研究所の発達生物学者で、研究の共著者であるマーティン・コーン (Martin Cohn)氏の研究室に所属している。
◆指の長さにホルモンが影響することを示した初の研究
性ホルモンが指の長さに影響を及ぼすことは以前から推測されていたが、「因果関係が証明されたことはなかった。男性と女性で指の長さに違いが出る直接の原因はホルモンだとする説を検証した例は過去にない」とコーン氏は言う。
チェン氏とコーン氏は、ヒトと同じく体内にエストロゲンとテストステロンを持つマウスを対象に、2つの一般的方法を用いて実験を行った。
1つは遺伝子を用いて、細胞の受容体(他の細胞とシグナルの伝達を行う分子)を不活性化する方法だ。マウス胎児の発達中の肢芽におけるテストステロンと エストロゲンの受容体に対してこの方法がとられた。そしてもう1つは、妊娠中のメスのマウスのホルモン濃度を高める方法だ。
実験結果は一貫していた。胎内でテストステロンの受容体が不活性化だったオスのマウスは、人差し指が薬指より長い“女性的”な指比を持って生まれ、エストロゲンの受容体が不活性化だったオスのマウスは、薬指のほうが長かった。
一方、エストロゲンの受容体が不活性化だったメスのマウスは、長い薬指を持って生まれ、テストステロンの影響を受けなかったメスのマウスは、非常に“女性的”な短い薬指を持って生まれた。
さらには、マウスの発達中の指における細胞分裂速度にホルモンが影響することも明らかになった。
テストステロンは薬指の細胞分裂を刺激し、軟骨と骨を成長させて指を長くする。これに対し、エストロゲンは細胞分裂を遅くして指を短くする。
しかし、研究チームを本当に驚かせたのは、指の長さに影響を及ぼすのがホルモンの絶対値(エストロゲンの総量など)ではなく、マウスの肢芽におけるホルモン作用のバランスだったことだとコーン氏は述べている。
◆指の長さから胎児期の影響を読み取れる?
コーン氏によると、今回の研究結果は、われわれの指の長さが、胎内でのごく短い発達期間におけるホルモンバランスを知るための“目安”になる可能性を示唆しているという。
例えば、人差し指が薬指より長い男性の場合、胎児期に多量のエストロゲンを浴びた可能性が考えられる。それ自体は、必ずしも悪いことではない。
しかし、そのようなイレギュラーなことが起きると、大人になってから健康問題を生じる場合もある。例えば、ホルモンと似た働きをする、またはホルモンを阻害する合成化学物質の影響を胎内で受けると、幼年期または成年期に健康問題を引き起こす可能性が指摘されている。
これまでは、母体が妊娠中に化学物質にさらされ、それによって胎児のホルモン作用が乱れたとしても、それを確かめることは困難だった。
しかしコーン氏によると、今回の研究によって、そのような出来事は痕跡を残す可能性が示唆されたことになり、このことは疾患や先天異常の原因を特定したり、さらには人の行動特性を説明したりすることにも役立つ可能性があるという。
研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に9月6日付で公開された。
Photograph by Nick Veasey, Getty Images